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2007.10.22

試小説(1) 宮本君が老人と海へ

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唐突に思い付いたので、たまにはフィクションなど書いてみる。
まだまだ未完成な感もあるが、ご笑納いただければ幸い。
(一応シリーズ化しそうなタイトルにしてあるが、続かないかもしれない)

なお、フィクションゆえに実在の人物やら場所やら時代やら方言やら武器やら何やら
とは一切関係ないので悪しからず。

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腰に大小を差した、薄汚れた野武士風の身形をした男が
小舟で砂浜に着いた場面から始まるモノローグである。

男は杖代わりに船の櫂を使い、足も濡らさず器用に浜へ飛び降りた。
そして、まず振り返って小舟の船頭をしていた老人に向かって言う。

「そんじゃ爺さん、ちょっと待っとれ。すぐ戻るかんな」

そう言うと、彼を待っていたと思しき別の男に向かって歩み寄った。
相手の男は小綺麗な武士の出で立ちで、長い刀を携えている。

「や。佐々木君、お待たせ」

「いや~、大変だったよ。渡し船を頼もうと思って港に行ったら
潮の具合が良いとかで、ほとんど漁に出払っていてね。
浜で網の繕いをしていた爺さんに頼み込んで、ようやく出たんさ。
ところが沖に出た途端、潮目が変わってしまったんで、ずいぶんと
時間がかかってしまったよ。そいでな……」

「え? それだけじゃこんなに遅くならないだろうって?
あー、いやまあそうだよな。もう1刻どころの遅刻じゃないもんな。
誠に済まん、実はちょいと寝坊してしまって」

「いやそれがさ、昨夜は宿に近所の人たちが集まってきていて、
それで調子づいた弟子どもが飲むぞ飲むぞって聞かなくてね。
ついつい釣られて、俺もしこたま飲んでしまったんだ。
で、目が覚めたら日が高く昇ってた。……いやいやホント済まん。
そいでな……」

「ああ、うん。宿は、あすこだよ。
ほれ、前にお城から使いの者を寄越してくれたトコさ。
なんせ俺ら貧乏なんだから、そんな高い宿になんて入れるワケもなかろ。
ところがな、さすがに昨夜は飲み食いし過ぎて高くついてしまった。
そいでな、昨夜の酒代を払えいうて、宿の女将が角を生やした般若のような形相で
俺らを叩き出してしまったんだ。いやもう、こんなのは京のとき以来だね。
……なので後生だ。カネ貸してくれんか」

「京の吉岡さん家? そうそう、こっちにも噂は届いてるだろ?
あの一家には、何度もお世話になったし、カネも貸してもらったよ。
俺ぁ田舎から出てきて間がなく、都暮らしも分からんかったからね、
本当にいい人たちがいるもんだと思ってた。
だが、しばらくしたら急に態度が変わって、さっさと返せと言われた。
挙げ句の果てに、払えないトコロに何人も取り立ての連中を寄越して
きたもんだから仕方なく切り捨てて逐電した」

「もちろん俺だって泥棒じゃないんだ。あればきっちり払ったさ。
でもな、払おうたって一文も持ってなかったんだから致し方ない。
それに俺だって我が身可愛いタダの人だからね。
身を守るのに必死になってたら、何人も斬ってしまうコトになった。
後で聞いたが、家も断絶してしまったのだそうだな。
そういうのをアレか、不可抗力っていうんだっけ。
まあそんなワケで、済まぬが貸し……」

「いやいやいやいや、待ってくれ待ってくれ。
そこでいきなり刀を抜かれても困る。ていうか、鞘まで投げ捨てなくても……」

「うん、もちろん勝負は受けた以上、ちゃんとやる。そこは二言もない。
ただ、そのカネを返さないとできんのだ。なんせ刀を預かられてしまってな。
ほれ、この腰の大小は拵えだけさ。格好つかんので身だけ抜いてもらった。
二日酔いでフラフラの弟子たちもそれぞれ金策に出てもらったが、俺はといえば
佐々木君との約束があるなら、ついでに借りてこいって命ぜられてしまった」

「あー、もうホント誠に情けない。あの爺さんも宿の女将の差し金でな。
いや実は、爺さんに渡し船を頼んだのは俺じゃなくて女将なんだ。
ちゃんと俺が逃げ出さずにカネを払うかどうか見張りに来てるってワケさ。
なので、本当に申し訳ないんだが貸……」

「ん? 宿の女将の娘?
うん、いたね。たしか、おミヨさんといったっけか。
ちょいと骨っぽいが、年頃だけにしっかり肉付きが良くて、うん。
そいで笑ったりすると、これがまた可愛らしい声なんだよね。
鳶が鷹を生むとは、まさにあの母娘のコトを言うんだろうなー」

「おうおう、よく分かったな。
そうなんだよ、彼女って酒に酔うと『強い男が好き』とか言ってなー。
うんうん。そいで、一緒に寝た。
いやそれはそれとして。だからその、カネをだな……」

「や、ちょと待て。何故そこで君が怒るんだ?
カネがないのは俺のせいじゃないぞ。
そもそもカネは天下の回し者というじゃないか。いや違う、回り物だったっけ。
まあそれはともかく、もう戦国の世も終わろうとしているのだから
俺たちみたいな無頼の武芸者なんぞ食い扶持がなくても仕方なかろう。
せいぜい身体張って果たし合いを見せて日銭を稼ぐしか、生きる道はないのだ」

「え? そういうハナシじゃない?
カネじゃなくて、おミヨさんのコト?
そういえば今朝は、『宮本様は強い男なんだから
カネ集めるくらい簡単よね』なんて彼女に言われたなあ。
そういう、ちゃっかりしたトコロは母親似だよね。あの娘の取り分は知らんが。
ありゃぁ将来、ずいぶんと遣り手になるだろうさ。
あの船頭の爺さんに言ったら、やられたなと笑われてしまったが」

「ん? もしかして佐々木君は彼女のコトを……?
うーん、そりゃ止した方がいいのではないかな。
きっと君のように真面目な武士ではケツの毛まで毟られてしまうぞ。
なにせ、俺みたいなのがちょっと関わっただけでコレだからな」

「あ、いや、掛かってくるなって!
ああもう何とでもなれ!……」

男は、長刀で斬りかかってきた相手を反射的に櫂で叩き伏せてしまう。
頭から鮮血を迸らせ前のめりに倒れた相手に、男は慌てて駆け寄る。

「佐々木君、おい、佐々木君!
……だめか。また勢い余って殺してしまったようだ。
咄嗟のコトとはいえ、参ったな」

と、浜の奥の方に居並ぶ武士たちが駆け寄ってくるのに気付く。

「やば! 勝負する前に殺しちまったから、観客もカンカンだ!
こりゃカネ借りるどころじゃねえな。
とっとと逃げないと吉岡家の二の舞になりそうだ。
おい、爺さん、巻き込まれるぞ! つか俺を乗せて、ひとまず逃げてくれい!」

後年、この男すなわち宮本君は剣聖と称され、
日本中どころか世界中に名を轟かすコトになったとかそうでないとか。

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