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2008/08/13

試小説(2.3) 羨ましいよ太郎・中編

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大人たちの説明を聞いた巡査は不安になって
応援を呼ぶため本署に電話をかける

「不審者が海から入り込んだらしいであります」
「村の者によれば数人は乗れる船らしいであります」
「大至急応援をお願いするであります」

子供たちに連れられて裏山への道を上っていく太郎
ふと振り返れば港と集落が一望できる

「やっぱりここはおらの住んでいた村だ」
「だが太郎みたよな人、おれたち知らねぞ」
「たまたま景色が似てるだけじゃねのか」
「いや間違いね。この山道もあの岬も覚えてる通りだ」
「本当か」
「あの山の向こうには別の島があるだろ。だから浦島だ」
「うん。島はある。だが何で太郎は警察も知らねんだ」

ふと一人の子供が言う

「ひょっとしたら太郎は兵役に行ってたか」
「へえきって何だ」
「へえきじゃね。へいえきだ」
「たいてい大人になるといくさに出るんだ。2年か3年くらい」
「長い人は5年も10年もだ」
「おらの村にいくさなんてね」
「いくさは遠い南の方だ」
「ここの村の人もいくさに行くのか」
「そりゃお国を護るのだから」
「だのに遠くまでいくさに出ないといけねのか」
「お国の発展のためには南方の資源が欠かせないんだよ」
「ここでとれるものだけじゃ足らねのか」

警察から応援の人員を乗せた車が駐在所の前に
けたたましい急ブレーキの音を立てて停まる
その後席から出てきた警部に巡査が敬礼する

「不審者は何処に向かいしや」
「只今自警団数十名が鋭意捜索中であります」
「よろしい。ならばひとまず駐在所で待つとする」

裏山の中腹で広い舗装道路を横切る太郎と子供たち

「こんな広くて固い道、何ぞバケモンでも通るのか」
「あっちは兵器工場。鉄砲とか、大きな戦車とか、いろいろ作ってる」
「ウチのお父ちゃんそこで働いてる」
「おれの兄ちゃんもだ。職人だから兵役より工場でお国に役立つんだって」
「へぇき? せん、しゃ? まるで分からね」
「いくさに勝つための武器さ」
「槍や弓矢とは違うのか」
「もっと強い。鉄砲は弓矢より遠くの敵を倒せる」
「それはおそろしや」
「鉄砲の大きいのが大砲。敵の砦を打ち崩すんだ」
「とんでもね」
「その大砲を積んで走り回るのが戦車だ。すごく強いんだ」
「いくさ場にそんなバケモンがいたら、死んでも行きたくね」
「そんな弱虫では国を護れね。おれたち勇敢な小国民だ」

自警団の連中は2~3人ずつ徒歩や自転車で村中を走り回り
各戸で聞き込みをしつつ不審者を探し求める
そして山に近い村はずれの畑にいた老婆の目撃証言を得た

「怪しい人や変わったことはなかったか」
「さっき子供たちが山の方へ行った」
「子供たちが国民学校へ行かずに山か」
「でも先生が連れとったぞ」
「大人が一緒だったのか。どんな風采だ」
「着流しでぼさぼさ頭の男じゃ」
「それこそ不審者だ。なにより勤労奉仕にも早すぎる時間だ」
「ハァ、言われてみればそうじゃの」
「たいがい間違いなかろ。おれ巡査に知らせてくる」

いったん山を登って峠を越えて山向こうへ続く舗装道路を
一緒に歩きつつ太郎は子供たちに問い掛ける

「いくさ、ずうと続いとるか」
「おれたちが生まれる前からだ」
「さむらいは戦わないのか」
「みんながさむらいになって兵役に行くんだ」
「国民皆兵なんだよ」
「よく分からね」
「お国のために国民全員が戦うんだ」
「みんないくさに行けば村にゃ誰も残らねだろ」

山裾の畑から自転車が壊れんばかりの勢いで走ってきた
自警団の男が駐在所に転がり込んでくる
警部と応援の警察官たちを見て驚きつつも
息せき切って状況を説明した

「手掛かりを得たか」
「や、山の方に向かってます」
「その様子は」
「国民学校の、こ、子供たちをかどわかして連れているようで」
「由々しき事態だ」
「車を出せ! 大至急、山へ向かうぞ!」

今度は逆に太郎が子供たちから質問を受けていた

「太郎の村は、どんな村だ」
「10軒くらいの小さな村だ」
「なして暮らしてる」
「小さな田畑を耕したり海に出て魚を釣って食ってる」
「太郎も耕したり釣ったりしてるのか」
「おらの家の前は砂浜で畑はよくねが釣りは得意だ」
「どんだけ獲るんだ」
「いつもたくさん獲れて隣の村まで売りに出たりしてる」
「太郎、すげえな」
「何日も時化が続かなけりゃ食うには困らね」
「おれたち毎日毎日芋飯麦飯菜飯ばかりでいつもひもじい」
「お前らの畑もよくねのか」
「違うよ、いくさに出てる人たちが食うために我慢してるんだ」
「お前らのために浜で釣ってこよか」
「釣りは警察に捕まっちゃうからダメだって」

そう言って子供たちは笑う

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