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2008.08.12

試小説(2) 羨ましいよ太郎・前編

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夜の海は静かに凪いでいた
星明かりに浮かび上がる大きな亀
とその背に乗った人物のシルエット
さらに曳航している古びた木造の小舟

この亀は人語を解するらしく
乗せた人物と会話をしている
背の人物は若い男
もともと短い裾をさらに絡げた着流しの格好で
細い竹の素朴な釣り竿と小箱を携えている

「ちょと長居しすぎた気が」
「ひとまず人目につかない夜中にしましょ」
「亀に乗って帰ったら家族に何と言われるか」
「途中まで送りますで、最後は小舟で」
「そだな。また虐められたらいけん」

カメと別れて小舟に乗り換えた男は
浜辺に近付くにつれ違和感を覚える
星々が地上に置かれたかのように
異様に明るく照らされており
砂浜だったはずの港は
奇妙な四角張った岩が埋め尽くしている
太郎は呆気にとられた

「おらの村はどうなってしまったか」

その港の船だまりには大きな船が並ぶ
船縁も高くて漕ぐに適さず、といって帆柱もない
星空を見上げれば夜明けまで少し間がある
男は船の並びの端に自らの小舟を舫い上陸し
近くにあった小屋に入って休息することにした
明け方に子供たちの声で目覚めた男は
ひょいと顔を出し子供たちに話しかけた

「おらの家は知らねか?」
「お前さま、誰だ?」
「おら、太郎ていうんだが」
「知らねな」
「このあたりは浦島ちう村じゃなかたか?」
「そんな名前の村、知らね」
「ここらは西京市っていうよ」

半袖半ズボンに帽子を被り小さな鞄を肩に提げた子供たちに
たちまち囲まれる太郎

「太郎さ、身分証持ってないの? 住所わかるべ」
「みぶんしょ? 分からね。たぶん持ってね」
「いけねな。お巡りさんに連れてかれるぞ」
「おまーりさんて何だ? 分からねぞ」
「警察だよ」
「それも分からねな」
「とにかく悪いことしたら連れてかれるんだ」
「おら悪いことなんてしてね」
「悪いことしてるかどうかは『署で説明』するんだよ」
「さっぱり分からね」

「それより少し歩いてみたい」
「その格好じゃダメだろ」
「お巡りさんに連れてかれる。怪しいのも連れてく」
「そだ、太郎、服を買え」
「おらカネ持ってね」
「じゃダメだ。おれたちも持ってねしよ」

一方、大人たちは朝になって
港に突如現れた小舟に大騒ぎ

「こりゃ最近各地で噂の不審船か」
「すると乗ってきたのは敵の工作員か」
「したら早えとこ通報せんと」
「放といたらおれたちも危ねもんな」
「そだそだ、警察行かねば」
「あまりに大胆な輩だ。自警団も集まろう」

子供たちは太郎の持ち物に興味を示し始める

「太郎さ、抱えてるその箱の中身はカネじゃねのか」
「知らねが大切なもので開けらねのだ」
「開けねって、どすんだそれ」
「土産だ。父ちゃん母ちゃんに渡す」
「ほいじゃ仕方ねな」

「ところで太郎さ、その竿で釣りするのか」
「許可証を持ってなかったら釣りしちゃいけねえぞ」
「お巡りさんに連れてかれるぞ」
「それから太郎さ、その腰のは刃物だろ」
「そだ。釣った魚捌くに使うよ」
「ダメだ。刃物なんか持ち歩いちゃいけねえんだよ」
「お巡りさんに連れてかれるぞ」
「何しても連れてかれるんだな」

大人たちは駆け足で駐在所へ向かい巡査に説明をする

「不審船が港にある」
「小さなボロ船だが静かに漕いで港に忍び込める」
「あの大きさなら3~4人は乗ってこれる」
「大胆不敵にも、おれたちの船の隣に舫ってる」
「村の中に敵の工作員が入ったに違えね」
「とにかく巡査も一緒に来てくれろ」

子供たちに警察の恐ろしさを聞いた太郎は不安になる

「警察に連れてかれるとどうなる?」
「知らね。みんな帰ってこね」
「隣の兄ちゃんも帰ってこね」
「ありゃ勘当されたってよ」
「違うよ、そういうことにしたんだ」
「そんな噂、あんまりしちゃいけね」
「それより太郎も危ねから裏山にでも隠れろ」
「そだそだ、太郎は悪い人じゃねだろ」
「おれたちも一緒に行くぞ」

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