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2010/01/14

試小説(5) ケータイ小説

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目が覚めたとき
あたしは自分がダレなのか
まるで分からなくなっていた

まわりにはダレもいない
ダレの声も聞こえない

…違う

遠くでダレかが呼んでる

気がする

じっと
「…………」
耳を澄ませたけど

その声の意味は分からない


……あ!

ダレかが目の前を
通り過ぎてゆこうとする

待って!
待って!

おねがい!
待って!!

でも
そのヒトは気付いた様子もなく

そのまま
行ってしまった


どうしよう
どうしよう

あたし
ひとりぽっち
なの?

そういえば
友達の顔も名前も電話番号もメールアドレスも
何ひとつ思い出せない

てか
あたしはダレ?
それさえも思い出せない

あたし
どうなっちゃうんだろう
どうしたらいいの?


遠くの声は
相変わらず
ナニかを伝えようとしているみたい

だけど
あたしには
それを聞き取るチカラがない


「あたしはここ
おねがい
みつけて」

いくら叫んでも

あたしの声は
ダレにも届いてないみたい

目の前のダレも
気付いてくれない

ただ通り過ぎていくだけ


あたしは

ひとりぼっち?


街の中を

さまようばかり?


このまま

ずっと……?

--
「え? そうだった? おっかしーなー」
女はそう言うと、ケータイを開いて、覗き込む。
画面には「SIMを挿入してください」と、表示されている。
「ナニコレ? 壊れちゃった?」

「どれ、貸してみ」
ツレの男が、彼女からケータイを受け取り、
裏蓋を開けて電池を外し、SIMカードを抜き出す。

「たぶん、これが弛んでたんだよ。この小さいチップ。
オレのケータイも、前に落としたとき、こうなった」

そう言いながら、ポケットティッシュで端子を拭いて戻し、
電源を入れる。

「ほら、これで繋がる」

「ホント!? ……あ、よかったー。電波きたー」

「おおかた、どこかでぶつけて、弛んじゃったんだろ。
しっかし、どうりで繋がらなかったワケだ。
そのチップにケータイの電話番号が記録されてるから、
外れちまえば電話もメールもできなくなる」

「へー、そうなんだ。知らなかった」

「ひょっとしたら、『ここはドコ? あたしはダレ?』なんて、
泣いてたかもよ。そのケータイ。
……誰かさんみたいにな」

「ひっどーい。あたし泣いてなんかないもん。
てかメール、何この数。
アンタこそ、心配しすぎー」

「おま! そりゃ心配するだろ。
ケンカして出てったきり、ずっと連絡とれなかったんだから。
で、ようやく見付けたと思ったら、こんなカフェでのんびりしてるし。
まったく、心配して損した」

「ウソウソ、ごめん。
ホントは、待ってた。
見付けてくれて、ありがと」

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