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2010/02/17

試小説(6.99) 赫たる夜の秘めたる騒動の後のまつり「終章.地の人々よ、月の姫よ」

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夷たちの村で養生させてもらいつつ、話を聞くこと数日。私も徐々に体力を取り戻してきた。名残は尽きないが、あまり長居して彼らに迷惑をかけたくないので、早々に下山することにした。というのも、彼らは遠からず諏訪を離れ、さらに北へ向かうというのである。
礼をしたいが、大した物を持ち合わせているわけではない。しかし帰京してから送り届けるのでは間に合わない。形ばかりだが、身に付けていた短剣をイワヅクに譲ることにする。イワヅクは、むしろ私が恐縮してしまうほどに感謝し、里の近くまで案内人をつけて送らせてくれた。
こうして、長かった旅も終わり、私は東山道を都へ帰ることにしたのである。

あの心優しい夷たちは、これからも倭人と積極的には交わろうとせず、ずっと彼らなりの生き方を守り続けることであろう。ちょうど船乗りたちが、仲間同士で助け合いながら海と戦い続けるのと同じように。
一方、従者がどれだけ嘆こうとも麻呂は戻ってこないが、貴族たちは麻呂のことなどすぐに忘れ、飽きることなく権力争いを繰り広げ続けるに違いない。そんな貴族たちに悩まされながらも、工人は自らの芸を高めることに没頭する。里の人々は、ときに都の栄華に惑わされるかもしれないが、慎ましい暮らしを続けていく。
そしてコノハナノカグヤヒメを欲していた帝は、それを得られず不死の薬を焼き捨てた。イワナガヒメの道を選ぶことはなかったのだ。神代の伝えと、全く変わらない。翻ってみれば不二の山は不死となり、その力はこの地を満たし、そして人々の営みを支えてくれるだろう。

まったく、人の世に飽きる暇などないのである。
そうそう、帰ったら記事を書かねば。私も飽きる暇などないのだった。
原稿の構想を練りながら歩いていたら、目の前に地面が見えた。上り坂に差し掛かったのに気付かなかったようだ。見上げてみれば、峠道の先に充ち満ちた月が上っていくのが見える。
かの月に住むという天上の人々にしてみれば、我ら地上の人々の営みも滑稽に見えようか。
だが月よ、滑稽というのは楽しくもあるではないか。
たしかに地上の世界には悲しいことも数多くあるが、子細に伺えば、いろいろ面白いこともある。
私は、もとより地に生きる運命の身ではあるから、月に行くなどできようもない。だが、このような地上の人々のありようが愛おしくて堪らないのだ。だから決して、この地上から離れることはしない。この身体が朽ち果てるまで。

むしろ地の上から早々に去っていったことを、悔いてみないか、月の姫よ。

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