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2010.07.21

理系用語で読み解く社会(66) 特殊市場の時間軸

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生物がニッチへ進出するのは何故か。

メインストリームな環境で生きづらかったから、あるいは追い出されたから、という理由もあるだろうけど、
そこにも生きる道が、あるいは生きる糧があるから、といった背景についても見落としてはいけないだろう。

先日、某独法研究機関の公開セミナーで深海底に沈んだ鯨の死骸にできる生物圏のハナシを聞いた。
太陽エネルギーの恩恵から遠く隔たった深海底。貧栄養環境では沈んだ生物の死骸が貴重な栄養源。
ここで効率的にエネルギーを利用できるのは、還元性の雰囲気中の化学エネルギーを使う原核生物。
地球上に酸素が豊富になる以前からあった、いうなれば最も原始的な生物の存在形態というワケだが、
それを体表に付着させたり、細胞内に取り込むようにした動物たちが、大きな群集を形成している。

もちろん、酸素が豊富な環境に適応し、豊富な太陽エネルギーを利用できる環境で進化した生物だ。
そこから再び深海底のニッチへ進出していく過程で、還元性微生物との共生関係を作り上げてきた。
その系統を辿っていくと、ゆくゆくは細胞内共生、細胞内小器官へと進んでいく途上とも思われる。

真核生物は、進化の過程で酸素を利用する微生物を取り込んだりしていったと考えられているが、
還元性微生物との共生関係においては未だ、そこまでの完全な取り込みには至っていないようだ。
少なくとも、単細胞時代に細胞内小器官まで至るコトができなかったのは間違いなさそうである。
ミトコンドリアや葉緑体のようにならなかった理由は、「市場規模」の違いにあるのかもしれん。

太陽光は地表で豊富に得られる。それを利用する市場とは、生物にとって非常に大きなものである。
その結果として酸素が大量に作られたから、酸素を利用する市場の規模もまた非常に大きなものだ。
これに対し、化学エネルギーを利用する市場については、それらとは違って規模の上で限界がある。
地殻内を通って地表に噴出する熱水や温泉、鉱泉、あるいは生物遺体などに依存するしかない上に、
大気や海洋へ大量に拡散してきた酸素を避けるため深海底や地殻内深部などに頼るほかはないのだ。

規模の大きな市場では多様性も促進されやすいし、競争原理が強く働くものだから進化も速かろう。
地球上の生物の歴史は地質学的年代スケール。市場規模の格差は時間につれて拡大していく一方だ。
その中で、大きなメインストリーム市場から小さなニッチ市場への進出を図る生物が、たまにある。
メインストリームにおける汎用性の高い存在が、ニッチへの適応を獲得していくというシナリオだ。

ニッチに適応していくには長い時間がかかるものの、いったん適応すれば高い率で占有が可能になる。
とはいえ、市場規模は小さなままであるから多様性も限られるし、競争原理もやはり強くは働かない。
還元細菌との共生関係が、途上と思える程度でしかないのも、そこまでの競争が不要だからであろう。
メインストリーム市場での競争社会から隔離され、独自の生活圏を確保していくコトができるワケだ。
こうして特殊な条件下での生物には“生きた化石”が多くみられる、というトコロなのかもしれない。

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ヒトの社会、たとえば産業界などをみてみると、特殊な用途に使われるニッチな機材のほとんどは、
そのときどきに応じて汎用製品をベースに改造して作られたようなモノが大半を占めているようだ。

街中でときたま見かける集団検診用の車両など特殊用途の機材が長く使われるのは典型的な例か。
専用機材をイチから作るより低コストで、運用も難しくないけれど、組み合わせた分、扱いは複雑だ。
また、いったん基礎が確立された上で改造を施して投入されるので、旧式さがあるのも否めない。
しかも長年に渡って大切に使われるコトが多いから、ずいぶんと昔の車種だって今なお現役である。

そういう意味では、ヒトにとってみてもニッチかつ最先端という生き方は非常に難しいのかもしれない。

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