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2010.07.14

不当な式

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「良い品を長く使う」というポリシーの友人夫婦。
あるとき、鞄の値段について語り合っていた。
普段使いの鞄の値段は夫は4万円、妻は5万円。
「結構な差だ」と夫、「大した差じゃない」と妻。

「どっちを基準に考えるかで、感覚の上での差は違ってくるはず。
4万円からみれば5万円は2.5割増、5万円からみれば4万円は2割引」
そんなコトを言って、2人を煙に巻いたのであった。

そんな、非対称性についてのハナシ。

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もともと組織体制の整った集団と、単なる個人の集合体とでは、
モノゴトに対する取り組み方や効率性などの面で自ずから違いがあり、
そこに非対称性が生じてくる。

たとえば企業対個人の紛争などは昔から数限りなくあるが、
個人の側を手厚く保護するような仕組みが社会に設けられ、
かつ個人の側が組織を作って対抗するケースが多いのは、
その非対称性を是正したり克服しようというものだ。

ある種の非営利団体もまた、個人や集団個人に対して
非対称性を持った力を発揮するコトが少なからずある。
何らかの生業を営む個人ないし小規模企業に対して
特定の思想信条などを理由に「その業務を即刻中止せよ」
という圧力をかけるケースなども、そんな一例。

圧力をかける側は、問題の主題とは別のトコロから
活動資金を得ているし、外部の存在だもんだから
自由な手法で攻撃を仕掛けるコトが可能である。

ところが圧力を受ける側は、生業そのものを否定され、
しかも生計を維持しつつ守勢に立たされるという状況。
使える手段は非常に限られる、そんな非対称性だ。

日本でも公開され話題となった、海豚漁についての
映画を例に、この種の非対称性を考えてみよう。
漁そのものの善悪については早計な判断を避けるが、
少なくとも制作者側は明確な反対を主張しているという。
その主張を効果的に訴えるため使えるリソースを最大限に
活用したであろうコトは、想像に難くない。

そして言語圏の規模、映像文化の違い、専業従事者による制作、
さらにはアカデミー賞という権威まで味方につけるコトになる。
いずれも彼らにとっては意図せず持ち合わせた背景であったり、
あるいは採ってしかるべき手段を選択したのみだとは思うが、
その批判の矢面に立たされる側にとってみれば、
いずれも当然のように使えない手法ばかりであるから、
あらゆる面で不利な条件が押しつけられたカタチだ。
「アカデミー賞ハラスメント」とは、笑えぬ冗談。

日本公開に際して生じた映画館周辺の騒動なども似たようなもんだ。
内容も程度も大きく違うが、やはり非対称性が見受けられる。

単に意見を異にする相手の声に耳を貸さぬ点を問題にしてるワケではない。
自らの意見が正しいと信じて疑わずにいるだけなら、大した問題じゃないのだ。
それでも黙って、何のアクションも起こさなければ、社会に馴染めるのだから。
非対称状態を利用しているという自覚がないコトが最大の問題ではないか。

負けないように、そして自らの被害を最小限に留められるように、
もっと言うなら具体的な戦いが始まる前に勝敗を決するくらいに、
あらゆる手段を尽くすのは、戦略的にみて当然のコトではある。
が、果たして倫理的にみて妥当な行為であろうか。疑問は残る。

少なくとも不等号の小さい側に立つ羽目に陥ったならば、
多くの人は、それを悪意として受け取るのではないだろうか。
悪意というより単に軽視してるだけ、が実態に近いのかもしれないが。
入江の裏側で海豚を海からの恵みとして400年間も尊重し続けている人たちが、
その海豚を思う気持ちに比べれば、何程のコトもないのではないかと。

「あくまでも正論を述べているだけであり、
相手が怒ったり泣き出したり被害妄想に陥るのは相手の勝手。
むしろ、そういう反応があるのは相手に問題があるコトの証拠だ」
なんて思っているのだとすれば、不等号の魔術に囚われたか。

なんとなく、政治屋にも似たトコロはある。
民主主義で選ばれた人たちが法律を決めるというルールそのものにも、
実は若干の非対称性が含まれているコトに留意しなければなるまい。
「現状を改めたければ、まず当選しろ」とばかり少数派の意見を
黙殺封殺するようであれば、やはり魔術にかかっていよう。

なにしろ対称性というヤツは常に自発的に破れようとしていて、
しかも非対称性には拡大していこうとする性質があるもんだから、
ヒトは常に注意して掛からねばならない。

不等号の大きい側にいるかどうか、そしてその状態を意識せず
便乗して利用していたりしないかどうか……。

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