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2010/08/14

試小説(7) 街角での遭遇についての調書

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「見掛けない顔だな」
目の前を通り過ぎようとしていた男が、いきなり振り返って話し掛けてきたのです。
小柄だが殺しても死ななそうな体格で、短く刈り込んだ頭髪と顎髭と口髭、
円形の縁の黒眼鏡の奥には、何もかも見抜くような視線が感じられるようでした。

「こんなのがいたとは、気付かなかった」
男は少し身を屈めるような姿勢で近寄ってきました。
近付きながら鞄の中に手を入れていて、何かを取り出そうとしているようでした。

「よーし、逃げるなよ」
男が取り出したのは、使い込まれたカメラでした。
腰を落とし手慣れた様子でファインダーを覗いて、
何やらダイヤルを回したりボタンを押したりして、
少し傾けたりして、ピントを合わせる音がすると……

パシャ!

シャッターを切る音がしました。

「そうそう、この角度。いい顔してるじゃないか」
男は撮った画像を確認しながニヤリと笑って、カメラを鞄に収めると、
「おかげで、いい表情が撮れたよ」
と言い残し、立ち上がって歩き去っていったのです。

ただ、それだけです。私が見たのは。

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